ちょっといいもの-本好き?
『クロスファイア』の感想

 この本は、宮部作品の中でも僕のお気に入り中のお気に入りで、再読したけどやっぱりすごいよかった。パイロキネシス(念力放火能力)という超能力を持ってしまった女性が、裁かれない社会悪に制裁を加えていく話だけど、超能力というオカルトな素材を、しっかりと社会問題に結びつけているところが、宮部みゆきのすばらしさだと思う。

 少年法だけでなく、法律の抜け道を利用している悪人っているじゃない?そういうものへの憤りって誰にでもあるもの。さらに、被害者の家族たちのやるせない気持ちって、実際にそうなってみないと本当のところは分からないのかもしれないけど、創造するに壮絶なものだと思う。

 なら、もし自分が淳子のよう力を持っていたらどうするのだろうか?って考えると、人事をは言えない。自分の死する人が殺されてしまったら、その相手に復讐したいと思ってしまうだろうし、自分の力を使ってしまうことだろう。

 でも、やっぱりそれって許されないんだよね。社会は秩序を守るために法律が必要だし、法によって人が裁かれるわけだけど、本来人が人を正当に裁くことなんて、不可能なんだよね。し、そんな力を持ってしまった瞬間に、人は人ではなくなる。淳子も最終的にそのことに気付いたわけだけど、人より一段上に立って物を考えがちな人間の性質からは、このことは容易には気付けないもの。人を裁くって、法律って本来どうあるべきなんだろうね?

 この話を一層深くしているのが、淳子の葛藤だと思った。彼女は異常な力を持ってしまったことで苦しむけれど、その中で必死に自分の存在価値を見出そうとする。その結果見つけたのが、装てんされた銃として悪との戦うことだった。でも、その中でも、彼女は戦いの本能と、人を殺すことの罪悪感で揺れる。こういう人間の揺れる心が本当に伝わってくるから、この話って人事には思えないんだよね。

 あと、淳子は最終的には自分を死に至らしめてしまったわけだけど、彼女は不幸ではなかったんじゃないかな?もちろんそれが正しいかは別にして、自分の存在意義を見つけられる人間なんて、ほんの一握りにすぎないもの。でも人は、必死に自分が何であるのか?何をすべきなのか?を探しているし、これは一生探し続ける問題なのかもしれない。淳子の場合は、超能力によって僕らとは違う悩みや苦しみだったけど、自分探しの苦しさって、誰にでもあるものだよね?

 こうやって考えると、クロスファイアが僕たちに訴えてくるものって、本当にいろいろなことがあると思う。だから、僕はこの作品が好きなんだけどね。